イタリア地方料理とは?

地方色豊かなイタリア

北は万年雪を頂くアルプス山脈から、南はアフリカ大陸と向き合うシチリア島まで、南北に長いイタリア半島。三方を地中海に囲まれ、内陸はアペニン山脈が連なり、地理的にも気候的にも非常に変化に富んだ地域性があります。

豊かな自然環境は日本も同じですが、各地方文化の独自性はイタリアの方が多様で複雑かもしれません。それは歴史上の政治的背景によるところが大きいでしょう。

西ローマ帝国滅亡後の中世以来、イタリア半島は周辺諸国による侵略・干渉を受け続けてきました。様々な王国、都市国家、ローマ教皇領などが分立する状態が実に1000年以上も続いたのです!
それに対して、統一国家としてのイタリアが成立したのは、わずか150年ほど前のこと。

今でもフィレンツェ人にとってピサやシエナはかつて隣国として覇権を争った敵であり、ミラノやヴェネツィアなどははるか別世界の外国といった感覚。現代のイタリア人にも残る都市間の強烈な対抗心は、そうした長い歴史の中で培われたものです。

こうした背景を知ると、たとえばナポリ民謡の「オー・ソーレ・ミーオ」を聴きながらピエモンテ名物バーニャ・カウダを食べることに、違和感を覚えるはずです。秋田料理店で沖縄民謡は流さないでしょう。やはり沖縄民謡を聴けば、沖縄料理が食べたくなるというもの!

その土地の料理を知るには、その土地の自然を知り、産物を知り、さらには人がつくる料理なら、人がつくってきたその土地の歴史も知ることが大切になります。

イタリア地方料理(ラ・クチーナ・レジョナーレ)

多くのイタリア人にとって世界一美味しい料理は、マンマ(お母さん)の料理。それは、代々受け継がれてきた家庭料理であり、地域の伝統料理です。
素朴で飽きのこない味わいは、カリスマシェフなどいなかった時代から何代もの人々の知恵で育まれた、最もシンプルで美味しいカタチ。

外食も、マンマの味に一番近いリストランテに通い続けるほど。おのずと町には地元の郷土料理店ばかりが軒を連ねることになります。

たとえばフィレンツェにミラノ料理店は見当たらないし、聞けばミラノ料理を食べたことがないフィレンツェ人も少なくありません。
そうした町で(ミラノ名物の)カツレツやリゾットを探すよりも、未知の郷土料理に挑戦してみる方が、美味しい一皿に巡り合える確率はグッと高まるというもの!

その土地の、その季節でしか食べられないもの。町の数だけ料理があり、マンマの数だけレシピがある。
だからイタリアの料理は個性と多様性に溢れ、驚きと発見に満ちているのです。

イタリア料理は存在しない!?

「イタリア人はイタリア料理を食べません」
こう言うとヘンに聞こえるでしょうか?

フィレンツェではフィレンツェ料理がすべてで、ナポリにはナポリ料理があるだけです。ミラノ風、ボローニャ風といった言葉は日本でも耳にするでしょう。トスカーナ料理、シチリア料理といった州単位でとらえることもできます。

「じゃあイタリア料理は誰が食べるの?」
それは、外国人です。

イタリアがまだ貧しかった時代、移民として海外に渡ったイタリア人たちが、それぞれの出身地の料理を持ち寄りました。こうして今では全世界で「イタリア料理」は大人気!
そんな「イタリア料理」に親しんだ外国人が多く訪れるイタリアの町でも、「イタリア料理」を看板に掲げるお店を見つけることができます。

ここではジェノヴァ風バジルペーストのパスタから、ローマのカルボナーラ、ナポリのピッツァまで、おなじみのメニューが一堂に並びます。
外国人には便利である一方、一般的なイタリア人が日頃訪れる場所ではありません。

「イタリア料理」と呼ばれるものは、イタリア半島の各地方料理を対外的に便宜上ひとくくりにした言葉だといえるのです。

外国では気にせずとも、イタリア国内ではこの地方料理の概念がないと、食べたいもの、美味しいものを探すことが難しくなってきます。
だからこそ、イタリア料理(ラ・クチーナ・イタリアーナ)ではなく、イタリア地方料理(ラ・クチーナ・レジョナーレ)を知る必要があるのです。

日本でも地方イタリアン

世界に広がるイタリアの料理がその国ごとにアレンジされるのは、ごく自然なこと。その土地の食材を使い、風土に合った味覚で仕上げたものが、そこで食べるには一番美味しく感じるものです。構造的にはイタリア国内の地方料理とまったく同じ。国境を越えた、イタリアンの地域的個性です。

日本でも、日々多くの和風イタリアンが生まれています。
イタリアの伝統的調理法をベースに、日本ならではの四季折々の野菜や香草、近海で獲れる豊富な魚介類、国産の良質な食肉など新鮮な食材を活かせば、日本でしか表現できない創造性豊かな一皿が完成するはずです。

イタリア発スローフード運動も謳う「地産地消」は、素材や環境、コストに負担のかかる長距離輸送を回避できるばかりでなく、生産者の顔が見える安心感を与えてくれます。地場産業を支え、地域の活性化につながる面でもとても大事なことです。

北海道函館のイカ墨リゾット、山形米沢牛のタッリャータ、伊豆の猪肉のサルシッチャ、京都賀茂茄子のカポナータ、博多や下関の辛子明太子スパゲッティ…。これに各地の日本酒を合わせるのも面白いでしょう。
日本国内でも存分に楽しめるのが、地方イタリアンの魅力です!

当サイトの活用法

「ラ・クチーナ・レジョナーレ.com」は、地方の伝統料理を守る生産者、料理人、マンマたちの声を、現地イタリアから発信するウェブサイトです。お店や料理を評価するグルメサイトではありません。

イタリア各地のお店や市場でスマホをWi-Fiにつなぐことを前提に、美味しい地方料理に出逢えるコンテンツを充実させていくので、ぜひご活用ください。

美味しい郷土料理で笑顔になれば、おしゃべり好きの地元っ子たちが得意気に話しかけてくるに違いありません。料理の先に見えるものは、人々の暮らしです。人と人がつながる料理の醍醐味を一緒に楽しみましょう!