フェデリカとノンナ

フィレンツェの北西25kmに、プラートの町がある。トスカーナ州で最も小さな県(プラート県)の県都だが、1992年にフィレンツェ県から分離するまで、イタリア全国の県都以外で最も人口の多い町だった。

プラートは中世から繊維産業で繁栄してきた。その伝統はフィレンツェのファッション業界と関係が深い。イタリアのファッションの中心は、ミラノに移る以前はフィレンツェにあった。手工芸の町・フィレンツェで皮革製品から服飾へ展開したグッチやフェラガモなど多くのブランドが生まれたのは、決して偶然ではない。

プラートが知られているのは、中世ルネッサンス期の画家、フィリッポ・リッピの存在も大きい。フィレンツェの肉屋に生まれ、孤児として修道院で育った彼は奔放な男だった。彼の代表作である壁画がプラートの大聖堂に現存するが、その制作中にプラートの修道女と駆け落ちをしたエピソードはあまりにも有名だ。

プラートとフィレンツェの関係は、いつの時代も深かった。むしろ長らくフィレンツェの一部であったし、例えばプラートの郷土料理はフィレンツェ料理とほぼ重なる。

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フィレンツェからプラートのリンベルティ家に嫁いだローラおばあちゃん(Lola)は83歳。60年近く家族にフィレンツェ料理をつくり続けてきた。

孫のフェデリカと家を訪ねたとき、玄関の外で待ってくれていたローラおばあちゃんは、手を大きく広げて私たちを出迎えてくれた。3匹の大きな犬たちも、大好きなフェデリカと見慣れぬ日本人の来客に興奮して走り回っている。

広い庭を通って家に入ると、ローラおばあちゃんは手際良く料理にとりかかった。代表的なフィレンツェ料理を2皿つくってくれるという。


–第一皿(プリーモ・ピアット)
Pasta e Fagioli
パスタと白インゲン豆のスープ

–第二皿(セコンド・ピアット)
Fagioli all’Uccelletto
白インゲン豆のトマトソース煮込み


白インゲン豆をつかうこの2皿は、よく一緒につくられる定番の組み合わせだという。
ローラおばあちゃんはすでに下準備をしていた。水をはって一晩置いていた白インゲン豆(乾物)Fagioli Cannelliniを水切りして鍋に移し、新たに水を加えて弱火で1時間煮ていた。

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【パスタと白インゲン豆のスープ】Pasta e Fagioli

1. 白インゲン豆の半量を裏ごし器(Passaverdura)でこし、煮た水+同量以上の水を加えて、岩塩とオリーブオイルを適量加える。さらに、ナツメグ、黒コショウ、塩を合わせた「ドローガ」と呼ぶ自家製調味料を加える。「ドラッグ」つまり「病みつきになる」というローラおばあちゃん特製のかくし味だ。

2. こさなかった白インゲン豆、トマトピューレを加えてさらに煮立たせ、味見をして塩加減を整える。

3. 乾燥パスタを入れる。NicchieやChioccioleなどのショートパスタをつかうのがリンベルティ家風だ(ロングパスタTagliatelleのレシピも伝統的)。パスタの表示通りのゆで時間を経て完成。

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【白インゲン豆のトマトソース煮込み】Fagioli all’Uccelletto

そのままではふつう付け合わせ(Contorno)の料理なので、第二皿として定番の組み合わせであるサルシッチャ(イタリア風ソーセージ)と一緒に煮込む。これもリンベルティ家オリジナルのレシピだ。

1. フライパンにエキストラバージン・オリーブオイルをしき、ニンニク2かけとローズマリー4-5本を加え、サルシッチャを焼く(風味を逃がさないため皮は取らない)。

2. サルシッチャがよく焼けたら、白インゲン豆をたっぷり入れて、材料が浸るほど白インゲン豆の煮汁を加える。ここでも「ドローガ」を適量加える。

3. 約5分後、トマトピューレを加えて煮込む。

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