コロンナータ産ラルドIGP

ファウスト氏に、ラルドづくりにおける難しさを訊ねてみた。

彼は「真っ白なラルドは、一枚の白い紙のようなものだ」と言った。
「紙の上に黄色い線をひいて、その上を黒い線でなぞれば、黄色い線は消えてしまうだろう?」
「紙の上でいう”色”とは、ラルドでいう”香り”と同じこと。一緒に漬けこむ様々なハーブのなかでも、どの香りが強すぎてもダメだ。すべての絶妙なハーモニーが、ラルドに極上の味を与える」

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Lardo con peperoncino

ここでファウスト氏は面白いことを言った。
「モヒート風味のラルドをつくっている」

モヒートとは、ミントとライムをつかったラム酒ベースのカクテルである。これらの材料を漬け込んでラルドをつくっているというのだ!
他にも、唐辛子とベルガモットを漬けたカラーブリア風味、ビール風味、ケーパー風味、それぞれを仲間内で楽しむためだけにつくっているという。

コンカの中から取り出したこれらをお土産に持たせてくれ、彼はこう言った。
「遊び心が大切だ。料理でも、遊びなさい」

伝統をしっかり守りながらも、ファンタジアから生まれる創造力が、イタリア食文化の歴史と奥深さ、さらには未来まで担う原動力なのだと痛感した。

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最後に、ラルドの正しい食べ方を伺った。

「塊の上側にすりこまれた塩は、包丁の”みね”ですべて取り除くこと。下側の厚い皮は削ぎ落とす」
「そしてスライスする前に、手と包丁についた塩をしっかり洗い落とすことが肝心だ」
それはなぜか?

「塩辛くてはだめだ。甘くなければラルドではない」
鋭い眼差しに、いっそうチカラがこもった。


掲載: 2015-08-01
本文: Yusuke Nomiya
写真: Kinji Moriyama


[あとがき]
終始、真剣な眼差しで我々に語ってくれたファウスト氏。強烈なこだわりと自信は職人気質そのものであり、確固たる人生哲学を併せもつ真のマエストロであった。

別れ際にあいさつを交わした。
「君がバリスタをしているカフェは有名だね。今度は私が飲みに行くよ」
「ではモヒートをつくりましょう。ただし、ラルド抜きでね」
初めてファウスト氏が大きく笑った。


[取材場所]
“Larderia Fausto Guadagni”
http://www.larderiafaustoguadagni.com/


[取材協力]
ピエロ・マンチーニ氏
松濤館空手師範。空手トスカーナ州選抜チーム顧問。
カッラーラの隣町・マッサにて、妻のチンツィアさんと『ホテル・アルチョーネ』経営。プールのある広々とした庭園に面したリストランテ&バールは明るくて開放的。海水浴はプライベート・ビーチで楽しめる。近隣の世界遺産・チンクエテッレやコロンナータへの観光拠点にも便利。

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Cinzia Monti e Piero Mancini

“Hotel Alcione”
Via Verdi, 43 Ronchi (Loc. Poveromo), Massa
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